『星系出雲の兵站』というSF小説がある。
遠い星にある宇宙軍の話で、異星人との戦闘にあたる補給部隊を描いている。
兵站(へいたん)とは、簡単にいえば、物流、ロジスティクスだ。
この本の中で、ある士官が
「英雄などというものは、戦争では不要だ。為すべき手段と準備が万全なら、
英雄が生まれる余地はない。勝つべき戦いで勝つだけだ。英雄の誕生とは、
兵站の失敗に過ぎん」
という。(林譲治著,『星系出雲の兵站1』ハヤカワ文庫JA, 2018, p.239)
兵站=物流がしっかりしており、前線に必要な物資が運ばれるなら、
英雄的行為は必要なく戦いに勝てるというのだ。
太平洋戦争で東南アジアに展開した日本軍が物資不足になったのは、
兵站に対する戦略をきちんと立てていなかったからだともいわれる。
兵站という考え方は、ビジネスでも生きる。
「英雄」でなりたつ組織は、「凡人に非凡なことをさせる」のではなく、
スター選手に売り上げ利益を依存する組織ということだ。
その時点で、組織の継続性は疑わしい。
利益を生む最前線にいかに資源・資材を投入し続けるか、
その設計をきちんとしていなければ、勝てるはずの戦いも勝てない。
ビジネスの場合、資材・資源は、人・もの・金・時間・情報など、
いわゆる経営資源と置き換えて考えられるだろう。
現場最前線に必要な「情報」が流れなければ誤った判断をしてしまうだろう。
十分な「時間」も与えられないままでは、
製品、サービスの品質は落ちるということはわかる。
そして、「人」は、「能力の総和」、「一人一人のモチベーション」、
「継続的な採用」、「育成、能力開発」、「組織文化」というように
とらえ直すと、わかりやすくなる。
さらに、頭数の問題では、かつて、石油ショックやバブル崩壊時に、
定期採用を絞った企業では、
後に中間管理職やベテラン技術者の不足に陥ったところは多い。
60歳以上のシニア層の活用というのも
採用戦略の失敗を取り戻す策になってはいまいか。
戦略を実行するためにも、これら「人」の兵站が
しっかりしていなければならないことは理解できる。
業績悪化時に能力開発にかける時間、費用を絞る企業も多い。
結果として、5~10年後の「人」の兵站に支障を来すことになる。
能力開発と業績成果の因果関係については、一概には論じられないが、
長年、多くの企業を見ていると、能力開発費用を絞った結果、
景気回復期における立ち上がりの遅さを感じたこともあるし、
同様に技能継承に支障が生じ、後に欠陥商品を作ってしまったり、
事故の遠因になったと思われることもある。
中小企業にとっては、さらに深刻な問題で採用・育成がうまくいかないと、
「人手不足倒産」ということにもなりかねない。
事業を継続させるためにも、兵站という考え方から、
人材戦略を考えてはいかがだろうか。
20200730 ジェックメールマガジンより