「と、おっしゃいますと?」お客さまの「真意と実情」を引き出そう
「反対されたらおしまい」という行動理論だから踏み込めない
「一歩踏み込む」ことのできないセールスが多いのです。
なぜならそこには「反対が出たら(因)、それで商談はおしまい(果)」という行動理論が強く働くからです。
では本当に、反対が出ると商談は終わってしまうものなのでしょうか?
例えば商談にはこんなパターンがあります。
①「いかがでしょうか」⇒(反対)「この程度の機能だったら、当社には必要ないな」⇒「そうですか。でも他と比べましてもこれが最も進んでいる機種なのですが」⇒「でもねぇ・・・」⇒「疑問でしたら他社の最近の製品をお調べいただいて結構です」⇒「そういうこおじゃないんだよな」
②「いかがでしょうか」⇒「値段は?」⇒「申し訳ないんですが○○万円もしちゃうんです」⇒(反対)「それは高いなぁ」⇒「そうですよね、高いですよね。しばらくしましたらまた値段も下がると思うんですが、今はまだちょっと・・・」⇒「じゃあ安くなったらまた来てください」
③「いかがでしょうか」⇒(反対)「悪いけど、今はまだそういう時期じゃないんだよな」⇒「そうですかぁ・・・今は無理ですか」⇒「うん。すまないな」⇒「いえ、とんでもありません。でも、どうしてもダメですかねぇ」⇒「ああ」⇒「そこを何とか」⇒「しつこいな!」
どうでしょう、①②③の例で思い当たる節はありますか?
どのケースも「いかがでしょうか」という用件切り出しに対し、お客さまから反対を受け、商談の不成功を予期させる方向をたどり始めてしまっていますよね。
これらを見る限り、なるほど反対が出たら商談は終わってしまうんだなと、改めて実感できます。
なぜお客さまは反対したのか?疑問に答えながら商談を進めよう
ところが角度を変えて、この「反対」」をお客さまの側からとらえて考えてみるとどうなるでしょう?
①のお客さまは、「この程度の機能だったら・・・」とおっしゃっていますが、この程度とはどの程度でしょうか。また、どんな機能であったら必要性を感じるのでしょうか?
②のお客さまは、「高いなぁ」とおっしゃっていましたが、なぜそう感じられたのでしょうか。予算に合わないのでしょうか。それとも他社の同等レベルの商品に比べて高いと感じたのでしょうか。商品の価値に見合わないと思ったのでしょうか。そもそもなぜ値段を聞いてきたのでしょうか?
③のお客さまは「今は時期じゃない」とおっしゃっていますが、いるならいいのでしょうか。また、どんなご事情で今は無理なのでしょうか?
ここで確認したいのが、こういうお客さまの心の中の疑問にお答えしたうえで、商談を進めているかどうかということです。
実際にそういう商談を展開していくとどうなるか、①を例に考えてみます。
「いかがでしょうか」
「この程度の機能だったら当社に必要ないな」
「とおっしゃいますと、現在の設備で十分ご満足なさっているということですよね」
「いや、十分なわけないよ」
「十分じゃないとおっしゃいますと、改善をご検討なさっているということでしょうか」
「検討も何も、『こうなればいいな』と思っているだけで実際どうしていいのか・・・」
「そうしますと現在のところは改善の方向性だけということなのでしょうか」
「それもねぇ・・・」
「とおっしゃいますと?」
「実は方向性さえ不明確なんだ。つまり今の設備に漠然とした不満はあるんだけど、いざ新しいのを買おうとするとどれに決めたらいいのか、その根拠がない。新しい機能の中には興味を引くものもいくつかあるが、どれがベストか優先順位も難しいし・・・」
「そういうことですか。それではまず、何に重点を置いて設備の改善を進めていくのか、その点から考えていかなければなりませんね」
「そういうことになるなぁ」
「承知しました。それではこちらをご覧ください・・・」
結局、誰のためにやっている商談なのかが問題
どうですか?お客さまからの同じ反対に対し、今度は商談がつながり、成功期待感のある方向へ進み始めましたよね。違いはいったい何だったのでしょうか?
お気づきの方も多いと思いますが、失敗商談パターンは「でも」で切り返し、お客さまの心中の疑問に何の関心も示さず、自分の勧める商品が得だということの正当性の固持に終始していることです。
一方成功商談パターンは「とおっしゃいますと?」で受け止め、お客さまの反対する真意に関心を持って、ひたすら反対の理由と、その奥にある実情を把握しようと努めています。
一言で言うと、商談はいったい誰のためにやっているのか、ということです。自分のためか、それともお客さまのためか、この違いにあるのではないでしょうか。
この点を確認したうえで、最初の疑問「反対が出たらそれで商談はおしまい」は本当かどうかを考えれば、おしまいにしようと思えばおしまいになるし、続けようと思えば続けられるのだといえるでしょう。いずれにせよ営業の肚ひとつということです。
その肚とは?それはやはり、自分のための自己都合商談なのか、本当にお客さまのお役に立つための商談なのか、最後はここに行き着くのではないでしょうか。
本原稿は、株式会社ジェック『行動人』から転載・加筆いたしました。