「アプローチ」からの自然な流れで「リサーチ」へ
今までご紹介してきた商談の四つの流れとその目的を、もう一度整理しておきましょう。
①アプローチ・・・お客さまの心を開かせる
②リサーチ・・・個別事情を聞き出し、共通課題で合意する
③プレゼンテーション・・・共通課題の解決策を提案し、購買意欲を高める
④クロージング・・・決心のお手伝い
さて、「アプローチ」完了時における、お客さまの心理をもう少し具体的に表現すると、
「私たち営業に対し、人間的には興味を持ったが、私たちが売るものの話には聞く耳を持っていない」という感じになります。
ですから、ここで一番やってはいけないことは、お客さまが心を開いてくれたことをよいことに、再び話題を売り買いに戻してしまうことです。
「ところで、さっきの提案の件ですが・・・」
「少々お話は戻りまして、本日の用件についてですが・・・」
などと言ってしまうと、
「やっぱりそうか。やけに親しげだと思ったら、結局は売り込みのためだったのか」
と、お客さまは敏感に察知し、せっかく開いてくれた心を、またもやピッタリと閉じてしまうからです(表面的には閉じている素振りなど見せないかもしれませんよ!)
さらに怖いのは、「かわいさ余って憎さ百倍」現象が生じることです。心を開いてくれたということは、ある程度信用していただいたからですよね。
ところが話を売り買いに戻すことで、その信用が裏切られたと思われることにもなりかねません。お客さまは、初対面より、むしろ悪い印象を持ってしまうことが多いのです。
だからこそ、「リサーチ」の最初の過程は「気づき」なのです。
「リサーチ」の第一段階 気づきへ話題をつなげる
気づきとは、こちらからの働きかけにより、お客さま自らの意思で、ご自身の現状について問題意識を持っていただくことです。
ここでいう問題とはもちろん、私たちが売るもので解決できる問題のことです。
気づきの過程は、次の二つの段階に分かれます。
①仕事上の悩みを聞き出す
②問題意識を引き出す
最初の段階が「仕事上の悩みを聞き出す」です。お客さまは、売り買いの話にあまり聞く耳は持っていなくても、我々営業に対して、「人間的にはいい奴だな」とか、「プロだな」と、認めてくださっているわけです。
ですからここで、“お客さまの仕事の悩み”に話題を振っても不信感を抱かれることはなく、むしろ喜んで、相談を持ちかけてくださることすらあるのです。
具体的には、
営業担当者 「そうですか・・・。ずいぶんお忙しいのですね。忙しさの原因はスキル不足なのでしょうか?」
お客さま 「そう、まさにその通りなんだ。経営陣が営業に関する業務の見直しを打ち出したから、見積もりから契約書から伝票から業者手配まで、何から何まで、営業担当者が一人で行わなければならないんだよ」
営業担当者 「見積もりや契約書など、いろいろなアプリが常にアップデートしますので、慣れていない、例えばベテランの方々など、特に大変なのではないですか?」
お客さま 「そうなんだよ。」
営業担当者 「実はここ数年、よくお聞きしますね。」
お客さま 「最近の傾向だなぁ。そうだろうなあ」
と、このように「相談相手」の姿勢を鮮明にするのです。
心的イメージとしては、カウンターを挟み、面と向き合って商談をしている状態から、カウンターを乗り越え、お客さまの側に並んで座り、真剣に悩みをお聞きする状態へ、いわば立ち位置を変える感覚です。
これができるのも、「アプローチ」でお客さまの心を開かせることに成功しているからです。
またこの段階では、コミュニケーションの難しさを意識し、お客さまに話しやすくなっていただくことも大切です。
なぜなら、いくら心を開いたといっても、自分の悩みを初対面の人に話すのは、誰でも抵抗があるからです。「傾聴の四原則」、うなずき・相槌・驚き・目つき(アイ・コンタクト)を効果的に活用し、多少言いづらいことでも、思わずしゃべってしまう、そんな雰囲気づくりを心がけたいですね。
それでは、行動理論で締めくくりたいと思います。
■誤った行動理論
受注に結びつけることが第一。お客さまの心を開きさえすれば(因)、少しでも早く売り買いの話に戻したほうがいい(果)。
■正しい行動理論
信頼関係づくりが第一。カウンターを乗り越え、相談相手の姿勢になることで(因)、お客さまは悩みを話しやすくなり(果)、結果として「リサーチ」の効果効率が高まる(果)。
本原稿は、株式会社ジェック『行動人』から転載・加筆いたしました。