もう一歩踏み込んだ個別事情を聴き出す
提言が見事に決まり、お客さまの心を打つと、
「この人になら、もっと重要な問題を相談してもいいかなぁ」
という心理を生み出します。
だからといって、お客さまはそんな自分の胸のうちを、はっきりと言葉で伝えようとはしません。
実際には怖い顔で腕組みし、「う~ん」と唸ったり、「なるほどねぇ」と言ったまま黙り込んだりするようなことも多いでしょう。
ところが、そんな相手の表面的な動作に気兼ねして、
「もちろん今すぐのお返事でなくて結構です」
とか、
「今日の今日でご判断は難しいですよねぇ」
とか、揚げ句の果てには、
「また参りますのでぜひお考えください」
などと言い残して帰ってしまっては、永遠にお客さまと深い問題を共有することはできません。
心の声に、もう一歩踏み込もう
では一体どうすればいいか?お客さまの懐に飛び込み、言葉にならない心の声を聴かせていただけばいいのです。
そんなことをして大丈夫かって?
質問したら嫌われるって?
それは本当でしょうか。質問する勇気がないことへの言い訳ではないのでしょうか。
なぜなら、お客さまは目の前の私たち営業に対して、「この人になら~」と、思ってくださっている。それは、アプローチからリサーチの流れをしっかり踏まえ、着々と信頼関係を積み重ねていれば、当然の状況なのです。
にもかかわらず、ここで一歩踏み込めないのであれば、うちあけ以前のプロセスに不安があるのか、あるいは「お役に立ちたい」という気持ちに嘘があるのかのどちらかですから、ここまでの自分自身の商談をもう一度振り返ってみたいところです。
ですので、ここは思いきって踏み込み、体当たりで、お客さまが抱える、より深く大きな悩みや問題を、質問をすることにより、聴き出しましょう。具体的には・・・、
お客さま・・・「(提言が終了。しばしの間の後)なるほどねぇ・・・(沈黙)、う~ん・・・(沈黙)」
営業・・・「何かご不明の点がございますでしょうか?それとも私の提案が今の○○さまの問題解決にマッチしていませんでしょうか?」
お客さま・・・「いや、そういうことじゃないんだけどねぇ」(モヤモヤとした煮え切らない表情)
営業・・・「私としましては自信を持ってご提案いたしましたが、まだまだ○○さまの深いご事情を存じ上げておりません。本気でお役に立ちたいので、ぜひもう二、三お教えください」
お客さま・・・「そこまで言うなら・・・。実は現在の体制になったのは・・・」
と、このようなイメージです。
信頼関係を本物にしてこそ真のお役立ちができる
ここで、私たちが踏まえておきたいことは、かなり信頼関係ができているはずの私たちに、なぜお客さまが内情をはっきり言おうとしないのか、この場面ではどのような心理状況なのか、ということです。
内情をスッキリと話しにくい理由は、主に三つあります。
① いくら信頼できそうな営業パーソンだからといって、知り合って間もない人間に、社内の深い事情を(込み入った事情、恥ずかしい事情、大きな問題など)を話してよいのだろうか(漠然とした自己保身)
② こんなことを話してしまったら、まるで、自分や自社の無能さを、外部の人間にさらけ出してしまうようなものだ(誤ったプライドや、体裁を繕おうとする意識)
③ 話してみたところで、どうにもなるまい(過去の経験にとらわれたあきらめ)
これらはいずれも、口外することに対する漠然とした不安が根っこにあります。そんな不安が残っているということは、信頼関係がまだ本物になっていないということです。
だからこそ私たちは、前記①から③のような、お客さまの胸のうちを配慮しつつ、まずはこちらが裸になってお客さまの懐に飛び込み、お役に立ちたい気持ちをぶつけるのです。それがお客さまの心を動かし、話しにくかったことを話していただく過程を通じ、より強固な信頼関係づくりへとつながっていくのです。
もともと、何とかしたくてたまらない問題であったわけですから、いったん話し始めたら、堰を切ったように次々と、個別事情が飛び出してくることでしょう。そしてそこにこそ、大きなお役立ちの可能性を秘めた、そのお客さまならではの固有の問題が潜んでいるのです。
では、行動理論でまとめてみます。
■誤・・・「おせっかいは禁物。お客さまのご事情にあまり深く突っ込んでしまうと(因)、ご機嫌を損ね(果)、商談がふいになる(果)。提言に難色を示したら、ほどほどで切り上げよう」
■正・・・「信頼関係づくりが決め手。こちらから相手の懐に飛び込み、お役立ちの想いを伝えるからこそ(因)、漠然とした不安が払拭され(果)、胸のうちを話してくれる(果)。提言に難色を示したら、もう一歩踏み込んでご事情を聴き出そう」
本原稿は、株式会社ジェック『行動人』から転載・加筆いたしました。