本提案への了承を得る働きかけ
簡単に復習しておきましょう。
共通課題で合意する
うちあけで、お客さまの個別事情(深く大きな悩み)を聴き出した後、喜び勇んでご提案の約束を取り付けたりせず、次の三ステップで共通課題の合意を目指します。
第一ステップ・・・目指す姿と現状の差を明らかにし、問題を浮かび上がらせます。
第二ステップ・・・問題を引き起こす原因を追究し、取り除くための課題を明確にします。
第三ステップ・・・課題に対し、共に取り組むことで合意します。
そこで今回は、この三ステップを事例で描き、皆様とイメージを共有してまいります。
それでは、医薬品原料メーカーの営業マンと、食品(麺)メーカーの開発部主任研究員との商談を例にとって確認してみましょう。
第一ステップ
その①・・・目指す姿の明確化
営業「そうですか。以前開発なさった商品が思いのほかヒットせず、それ以来、製造や販売部門の方々の信頼を回復できていないと・・・」(個別事情の確認)
主任「社内における信頼の低下が開発に口出しを許すことにつながり、さまざまな部門からいろいろな意見を言われてしまうため、ますます開発の方向性を決められず・・・」
営業「このままでは悪循環に陥ってしまいますね。主任は現在の状況を打破するために、どんな打ち手をお考えでいらっしゃいますか?例えば、これまでにない画期的な歯応えの麺を
生み出すとか」
主任「いやいや、そんな冒険はできないよ。新しいものほどヒットの確率は低いから」
営業「では、将来的な成長性をにらんで行きの長そうなカテゴリーを選択し、そこに差別化提案を加えるといった感じでしょうか?」(解決策のアイデア出し)
主任「うん、方向性としてはそうだろうなぁ。ただカテゴリーの見極めは難しそうだな」
営業「カテゴリーそのものは固い線にしておいて、差別化を大胆にするという手はいかがでしょうか?」
主任「なるほど。それならいいかもしれない。しかし差別化と言ったって・・・」
営業「御社の強みは一般消費者へのネームバリューということでしたよね。でしたら増加傾向の続く単身者をターゲットに、麺の特長を活かした朝メニューを提案し-中略-というように差別化を図ってみてはどうでしょう」
その②・・・現状認識
営業「単身者へのメニュー提案に基づく新商品を開発した場合、現状の商品ラインナップとの整合性はどうなりますか?」
主任「うん、そこなんだよね。アイテムが多すぎて生産が非効率化してしまっているんだ」
営業「既存商品を一度整理することは難しいんでしょうね」
主任「そりゃそうだ。いくら市場で高付加価値商品が短命化傾向にあるからといって、自分たちが開発した商品をこちら側から止めましょうとは言えないよ」
その③・・・問題の共有
営業「そうしますと、新商品を投入する際の大きな問題点として、アイテムが増えることによる生産性の低下が挙げられますね」
主任「アイテムの多さは表面的な問題だ。根本はむしろ商品の短命化なんだ」
営業「生産性向上のためにも寿命の長い商品を開発したい。しかしお客さまの嗜好はどんどん多様化・曖昧化し、効用のサイクルは短くなる一方・・・。
まさにトレードオフ(一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反の状態)の状況ですね」
主任「そういうことだ」
第二ステップ
その①・・・原因の深堀り
営業「アイテムが増えても、製造ラインの効率性を保つということは不可能なんでしょうか」
主任「当たり前だよ。一つより二つ、二つより三つ、増えれば増えるほど、製造ラインにかかわらず、さまざまな面で手間が増え非効率化につながっていく」
営業「それはアイテムを増やせばそれに伴って工程も増える、というお考えですよね」
主任「そうじゃないと言うのか?」
営業「断言はできませんが、そこに既成概念の落とし穴があるのではないかと・・・」
その②・・・課題の明確化
主任「何か名案でもあるのかい?」
営業「はい。現在、御社は麺だけではなく具材からパッケージまでを企画・製造なさっています。ですが、麺のみの取り扱いに特化すれば、生産の非効率化は免れます。-中略-
このように、麺をベースに具材のバリエーションを揃える・・・。御社が担うのは製麺部分のみであり、具材からパッケージ、配送の部分はタイアップ先に委託する・・・」
主任「おいおい、それではウチの利益率が下がってしまうだろう」
営業「あくまで売りは麺のおいしさであり、具材のバリエーションはニーズの多様化に応えるためです。そして全体を御社ブランドでシリーズ化し、-中略-加えて麺一本にラインを絞るため、製造の効率化によるコストダウンも見込めます」
主任「要は、具材メーカーとタイアップした新シリーズを当社ブランドで売り出すということか」
第三ステップ・・・共通課題で合意
営業「はい。これにより生産の効率化によるコストダウン効果と、絞り込んだターゲットの曖昧かつ多様なニーズへの対応というトレードオフを統合できるのではないでしょうか」
主任「頭では理解できるが、実際やるとなると現状の当社の状況では・・・」
営業「おっしゃるとおり、実現となるとハードルはいくつかあります。
そこで、私どもが提携しております具材メーカーをご紹介いたします。と申しますのも、-中略-ですので、御社、具材メーカー、私どもが、同じ目標を追い求めるチームとして対応することが可能になるかと考えます。
ぜひ一緒にやってみませんか!」
主任「そうだな、ひとつ腹をくくってやってみるか!」
少々長い事例となりましたが、お客さまもこちらも真剣勝負です。
お客さまの胸に次々と湧き上がってくる不安を受け止め、お互いの想いとアイデアをぶつけ合い、徐々に方向性を固めていく必要があります。一足飛びの商談では、共通課題の合意は困難です。
その辺のイメージを、事例を通じて掴んでいただけましたら幸いです。
本提案につなげる
この後は、「うちあけ」の過程の③「本提案の了承を得る」です。
ここでありがちな勘違いが、単なる次回約束、つまりアポの取り付けで終わってしまうことです。
前記事例の場合、新商品開発の予算取りに関わるキーマンに同席いただければ、企画内容の合意⇒予算確保の了承という二ステップを一気に進めることができます。
また何より、こういった働きかけをすることそのものが、こちらの真剣さを相手に伝えることにもなるのです。
だからこそ、訪問日時のお約束をいただいたその後に、「共通課題解決後の姿=成果共創イメージ」を力強く訴えることが大切です。
本提案への期待がぐっと高まり、プレゼンテーション時のクラッチ合わせが行いやすくなるのです。
本原稿は、株式会社ジェック『行動人』から転載・加筆いたしました。