「自己救済のための唯一の道は、日本映画『生きる』に見られるような、たとえば仕事によって自己を救済することであり、また、個人にとって宿命的・運命的な仕事を完全に成就すること、あるいは、重要な仕事を立派に遂行することによって自己を救済すること、であると言える。
おのれを知り、他人を尊敬し、愛することのできる人は一般に勤勉家であり、責任感が強く、その環境にあって、幸福をつかみうる人たちである。重要な、やりがいのある仕事を通じて自己を実現することも、また、人間の幸福に通ずると言える。」と、アブラハム・H・マズローは書いています
(『自己実現の経営』p.5, 原年廣訳, 1967, 産業能率短期大学出版部)。
マズローが、映画「生きる」(1952年,黒澤明監督,東宝)を見ていたことに個人的には大変驚いた(いくら黒澤明さんの監督作品とはいえ)。
また、この作品を「仕事によって自己救済」された物語と捉えたあたり、マズローらしいと感じる。
広辞苑(第7版)では、「自己実現」を「自分の中にひそむ可能性を自分で見つけ、充分に発揮していくこと。マズローは、人の欲求階層の最上位において重視した」と、マズローの名前を出して解説している。
しかし、近年、「自己実現」というと、「自分のやりたいことをやりたいようにやること」という理解をしている人が増えたように感じられる。
それは、単なる「わがまま」ではないかと思うが、マズローも、「自己実現について問題となる点は、自己実現は簡単にできることであり、また、自己実現の意味をわかったふりをすることである。すなわち、自己実現とはタナボタ式にできるものであると考えがちであり、
そのために、自己実現に対する真摯な態度を欠きがちになる。
すなわち、自己実現に対する執着・根強さを欠いていることが観察されることである」
(『自己実現の経営』p.6)と書いている。
マズローにとって自己実現とは、「仕事を通じて行うもの」という視点から説かれる。
「仕事によって自己実現するということは、同時に自我の追求と満足を得ることであり、
また、真の自我ともいうべき無我に到達することである。」
(『自己実現の経営』p.7)
新入社員に対して毎年行っている弊社の意識調査では、実は、自己実現の意識は低く
なっていく傾向がある。
それは、「給料や週休2日制が大切だとは言われるが、働き甲斐を求めることの方が
人間らしい生き方が出来る」等の設問を通じて、仕事との関係で自己実現意識を
測っているためだ。
自己実現は、仕事を通じてこそできることを再度、強調していく必要があるのではないだろうか。
20180823 ジェックメールマガジンより