経済活動の条件はY

人と同じ霊長類であるチンパンジーなどと人との違いについて、「互恵的な利他性」というものがある。


「食卓にイチゴを盛った皿があるとしましょう。イチゴを口に入れてもらった子どもは、『はい、お母さんも』『お父さんも』と、犬のぬいぐるみの口にまで入れようとするでしょう。『私があなたに、あなたが私に』という互恵的な利他性が成長していった。

これこそが人間らしさだと思います」と京都大学高等研究院の松沢哲郎特別教授は言う。「朝日新聞」2018年8月17日13版(朝刊26面)


アブラハム・H・マズローは、この互恵的な利他性を「協働関係」という言葉にまとめていると私は思っている。

「他人の喜びによって自分の喜びを得るというかたちである。すなわち、このことは、他人の喜びから利己的喜びを得ることで、これは、いわば利他的方法であると言える」という(『自己実現の経営』p.84, 原年廣訳, 1967, 産業能率短期大学出版部)。


他人を喜ばせることが、利己的な喜びであるということは、両者の喜びこそ、「人」にとっての喜びであるということになる。

他人が喜ばないものは、いくら自己の喜びであっても、結果的には喜びにならないということだ。

その行為そのものは、利己的であり利他的である。

これをマズローは「協働関係」と言ったのだ。


松沢哲郎特別教授は、「(チンパンジーには)互恵性は基本的にはないですね。

チンパンジーがいる2部屋にそれぞれ自動販売機を置いた実験があります。

コインを入れると、相手の部屋にリンゴが出る。片方ばかりがリンゴをもらう状況が続いたら、どちらもコインを入れなくなりました」(同)と他の霊長類には、この互恵的関係が成立しないことを指摘している。


本来、経済活動は、利己的であり、その結果として利他的になるものではないか(その逆かもしれない)。


より良いものを供給して儲けようとする活動は、結果としてその利用者の利便を図ることになる。


自己の行う他人が喜ぶ行為によって、自己の利益を得ることができる。

この「協働関係」が絡み合って、全体の経済活動が行われていると言える。


マズローはそのような経済活動の条件に「Y理論的経営(※)」を置いている。


現代日本において品質詐称の問題などを考えると、「Y理論的経営」を阻害するような条件が、企業の中に、日本の風土の中にあるのかもしれない。


例えば、「同一労働、同一賃金」ではなく、契約によって賃金格差を生じさせていたり、見えないハラスメントが未だに存在していたりはしないだろうか。

それらの障害が意図せず互恵的ではない行動を誘発させることがあるのではないだろうか。


(※)「Y理論的経営」とは、D.マグレガーが提唱する「Y理論の人間観(人は生来は条件さえ整えれば、遊びと同じように仕事が好きで責任を負おうとする、とする人間観)」をベースにした経営のこと。

対して「X理論的経営」とは、「X理論の人間観(人は生来働くことが嫌い、とする人間観」をベースにした経営のこと。


20180906 ジェックメールマガジンより

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