私の大学の恩師の遺稿集の題名は『そっ啄同時』という(「そつ」は、口編に卒)。
そっ啄同時とは、禅宗の話であり、遺稿集の中では、
「月満ちたヒヨコは生まれようとして卵の殻を内側から突きます。
しかし力が弱くて自力では殻を破ることが出来ません。
そのタイミングをみて母鶏が、その箇所を突いてやりますと、
ヒヨコは無事に殻を割ってこの世に生を受ける」と書かれている。
これは、企業内教育においても、特に初期教育において重要な思考だと思う。
殻を破って突いてきた新人を外からうまく導くことは、
その人のこれから進むべき方向を示すことにもなる。
また、内から突いてきたところを外から突くのは、
内にいる人の自己肯定感につながる。
そこには、自ら学び成長しようという意思のあるものと、
それを助けようとする指導的立場のものとの協同作業で、
人が成長していく姿があるのではないだろうか。
裏をかえせば、そのように「そっ啄同時」で人を育てようと思っても、
「自ら成長しようとは思っていない」社員を育てるのは難しいということになる。
しかも、そのような「自ら成長しようとしない人」は多いというデータがある。
リクルートワークスの「全国就業実態パネル調査2018」では、
「自己学習を行った人」(過去一年)は、全雇用者のうちわずか33.1%となっている。
(『【2018】どうすれば人は学ぶのか ―「社会人の学び」を解析する―』
http://www.works-i.com/pdf/180807_jpsedmanabi.pdf ※引用許可有)
学ばないことに対しても「特に理由はない」が半数を超えている。
調査では、OJTやOff-JTとの関連も調べているが、自己学習を行っている人は、
OJTやOff-JTを受けている確率も高い。
すなわち、企業として学ぶ環境を整えている方が、
そうでない場合より自己学習をする可能性が高くなるということだ。
また、この調査では、「仕事のレベルアップと仕事の性質(職務特性)と
自己学習の関係」に関しても調べられている。
これによると、効果が大きいのは「仕事のレベルアップ」と、
「評価・貢献・承認」の二つとなっている。
「仕事がレベルアップすることで、挑戦意欲が高まり、
それが新たな知識の蓄積や技術の習得を後押し」すると解釈される。
さらに「評価されることでやる気が高まり、さらなる成果を上げるために学びを行う」
ということにもつながる。
ここからわかるのは、「自ら成長しようとしない人」は、
「学ぶこと」「成長すること」の実感やメリット、喜びや習慣づけなどを
これまでに体感したことのない人なのではないだろうか。
本人自らが、卵の内側から殻をつつき、「そっ啄同時」を行うには、
つつきたくなる環境整備、条件付けも重要だということではないだろうか。
十分なOJT、Off-JTの機会、的確な仕事のフィードバックや成長機会の提供、
これらがあるからこそ、人は自ら学び成長するようになるのだ。
20190620 ジェックメールマガジンより