イノベーションというと、どんなイメージをもたれるだろうか?
これまでにないような新しいものを作ったり、大発明をイメージする人も多いが、
一般的には、「技術革新」と訳される。
しかし、そこまで大仰に構えなくとも、新しいやり方で商品・サービスを提供して
成功している事例は多くあり、それらもイノベーションだと思う。
例えば、「短時間カットのみの理美容室」。
技術的には、なんら新しいことはしていない。
ただ、提供するサービスをシャンプーをなくすこと等で、イノベーションしただけなのだ。
女性専用の30分だけのフィットネスクラブも同様の事例。
他にも、ペットボトル入りのコーヒーも、最近のイノベーション事例だろう。
従来、缶コーヒーが主流だったものを若者のちょっと飲み需要に応えた形だ。
これらは、「大発明」でもなんでもなく、少し視点を変えて
製品、サービスを提供しただけに過ぎない。
広辞苑第7版(2018年, 岩波書店)では、
イノベーションとは次のように説明されている。
「1.刷新、革新、新基軸 2.生産技術の革新のほか、新商品の開発、新市場・
新資源の開拓、新しい経営組織の形成などを含む概念。シュンペーターが用いた。
日本では狭く、技術革新の意に用いることもある」
このシュンペーターがイノベーションについて書いたのは、
1912年刊行の『経済発展の理論』。
なんと、第一次世界大戦以前である。
『経済発展の理論』の解説本である『シュンペーター経済発展の理論』
(p.49,伊達邦春・玉井龍象・池本正純,1980,有斐閣新書・古典入門)では、
「シュンペーターの発展を定義づける新結合の遂行-簡単に言えば技術革新
(イノベーション)-の中心的概念は、次の五つの場合を含んでいる」
と書いている。
その五つとは下記である(同 引用)
1.新しい財貨の生産。
すなわち、消費者の間でまだ知られていない財貨あるいは新しい品質の財貨の生産
2.新しい生産方法の導入。
すなわち、当該産業部門において実際にまだ知られていない生産方法の導入
3.新しい販売先の開拓。
すなわち当該国の当該産業部門がまだ参加していなかった市場の開拓。
ただしこの市場が既存のものであるかどうかは問わない。
4.原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。
この場合においても、この供給源が既存の者であるか
―単に見逃されていただけなのか、その獲得が不可能とされていたのかを問わず―
あるいは初めてつくりだされねばならないのかは問わない。
5.新しい組織の実現。
すなわち独占的地位(例えばトラスト化による)の形成あるいは独占の打破。
イノベーションとは別に、「新結合(neue Kombination)」という言葉も使われおり、
「これまでにないような発明」ではなく、既存技術ややり方を組み合わせることも
イノベーションということだと考えられる。
先の理美容室やフィットネスクラブの事例は、
2.の新しい生産方法(サービス提供方法)の導入、
ペットボトルコーヒーは、3.の新しい販売先の開拓に相当すると考えられる。
このように考えると、イノベーションの参考事例は至る所にあることに気が付く。
何よりも、イノベーションできない企業は、陳腐化し、競争に敗れるのだから、
今ある企業は、何らかの形でイノベーションを起こしたか、
世の中のイノベーションを取り入れることで生き延びてきたはずなのだ。
大きな組織でのイノベーションか、個人商店での小さなイノベーションかわからないが、
日々、市場の変革に対応しているかどうかが生き残りの条件であることは間違いない。
20190718 ジェックメールマガジンより